大判例

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東京高等裁判所 昭和28年(う)803号 判決

被告人 山井功吉

〔抄 録〕

右弁護人の控訴の趣意第一点について。

所論は、原判決認定の1乃至5事実の各自転車については、被告人は自転車を盗む意思はなく、ただ自転車の荷台に積んであつた荷物を窃取するのが目的であつて、その荷物を運搬するために自転車を使用したまでであり、しかも僅かな距離を移転したに過ぎず、従つて自転車はいずれも被害者等の手に戻つているのである。即ち、被告人は自転車に対しては不法領得の意思はなく、単に一時的に使用したに過ぎないのであるから、所謂使用窃盗に該当するものであり、窃盗罪は成立しないにも拘らず、荷物と自転車の両方につき窃盗を認めた原判決には事実の誤認があるというのである。

按ずるに、被告人が自転車の荷台に積んである荷物だけを窃取する目的で、いずれも夜間栃木市内のパチンコ屋の前においてあつた原判示1乃至5の自転車を乗出し、程遠からぬ人目につきにくい所で荷物を外し、自転車はその場に乗捨てたものであること並びに右各自転車は当夜又はその翌朝それぞれの被害者の手に戻つたことは記録に徴し明らかである。しかしながら、かような場合に、所論の如く自転車に対する不法領得の意思がなかつたものとして、自転車の窃盗は成立しないというべきであろうか。思うに不法領得の意思とは、権利者の物に対する支配を排除し、これを自己の所有物としてその所有権の内容を実現する意思に外ならないのであるから、たとえ目的は、自転車の荷台に積まれている荷物を盗むことにあり、且つ自転車を乗捨てた所がもとそれがあつた地点から程遠からぬ箇所であつたとしても、その間、所有者の意思に基かず、返還の意図もなくして自転車を荷物の運搬のために使用するとともに、その揚句夜間人目につきにくい場所に放置するが如きことは、すなわち自転車の所有者の支配を排除してその所有権の内容を実現するものというべく、かかる場合は、所謂使用窃盗とみるべきではなく、自転車に対する不法領得の意思が存すものと解するのを相当とする。してみれば本件において原判決が荷物の外自転車についても窃盗罪の成立を認めたのは正当であり、原審に事実の誤認はないから論旨は理由がない。

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